「イニシャルコスト」とは「初期費用」のこと
新しく事業を始めたり、設備を導入したりするときなどは、本格稼働するまでにさまざまな経費が必要です。このように、初期にかかる費用を「イニシャルコスト」といい、ビジネスシーンではよく見聞きします。まだ「初期費用」「初期投資」と呼ばれることも多いですが、カタカナ用語も広く使われる現代においてはぜひ覚えておきたい言葉の一つです。
本記事では、「イニシャルコスト」の正しい意味や使い方のほか、一緒に覚えておきたい言葉、英語表現、類語、言い換え表現などもわかりやすく解説します。
なお、対義語は継続運用に必要な費用を指す「ランニングコスト」ですが、詳しい説明は後述します。
「イニシャルコスト」の英語は「initial cost」
日本のカタカナ用語としての「イニシャルコスト」は、英語の「initial cost」が語源となっており、「準備費用」「初期費用」という意味をもつ単熟語として使われています。
・initial cost of construction(建設初期費用)
・initial cost estimate(初期費用見積)
・high initial cost(高額の初期費用)
・initial treatment cost(初期治療費)
また、「初期費用」を表すもう一つの熟語として「initial outlay」があります。「outlay」は、「支出」「費用」「費やす」などの意味をもつ単語ですが、「initial outlay」は、「初期費用」の中でも「特定の目的のために使う費用」を指します。
日本語においての「イニシャルコスト」とは
イニシャルといえば、山本一郎なら「I.Y.」といった表現が頭に浮かぶと思いますが、これは、名前と苗字の頭文字が使われていますよね。「イニシャルコスト」は、この表現が語源となっており、「イニシャル=最初の、はじめの」「コスト=物を生産するのひかかる費用」を組み合わせて生まれました。
また、「イニシャルコスト」といってもさまざまな費用が発生するわけですが、大きくは「固定費」と「変動費」があり、「イニシャルコスト」は「固定費」に分類されます。
イニシャルコストの例
イニシャルコストは、何を始めるかによって変わります。例えば、事務所を開設する場合のイニシャルコストの例をあげてみましょう。
・物件費用(家賃・補償金・仲介手数料など)
・内装費(必要に応じて改装する場合)
・事務所の備品費用(机・椅子・棚・事務機器・事務用品など)
もし、飲食店を始める場合であれば、厨房機器やメニュー関連の備品が必要になりますし、美容室であれば、ドライヤー、シャンプー台、カット台の費用がかかってきます。
「イニシャルコスト」と「ランニングコスト」の違い
「イニシャルコスト」の対義語でもある「ランニングコスト」とは、設備や建物などを維持していくために必要なコストのことをいいます。
例えば、コピー機を設置した場合、機械そのものが「イニシャルコスト」、カートリッジ、コピー用紙、メンテナンス費用、電気代など、維持に必要な費用が「ランニングコスト」です。
「イニシャルコスト」は低くければ低いほうがいい?
事業を始めた場合、「イニシャルコスト」は先に支払った資金で、企業としてはマイナス計上となります。そのため、「イニシャルコスト」分の利益が回収できて初めてゼロになり、以降の利益が黒字となっていくわけです。単純に考えると、「イニシャルコスト」が低ければ低いほど、早く黒字経営ができるようになるのでは?と考える人もいるでしょう。しかし、本当にそれでいいのでしょうか。
・初期投資分が早く回収できるため、利益を出せる時期が早まる。
・イニシャルコストを抑えるために中古品を購入した場合、早く壊れたり、省エネタイプではなかったりするため、ランキングコストが高くなる場合がある。
・イニシャルコストを抑えるためにリースにした場合は購入するより高くなる場合がある。
コスト面で大きな差がでる要因としてもうひとつあげられるのが、コンピュータシステムです。自社内でITの専門家が用意できる場合は、トラブル時やシステム改修も自社で対処できることが多いため、イニシャルコストをかけてでも社内にサーバーを設置することがいい場合があります。しかし、専門家がいない場合は、クラウドサービスを利用するほうがコストが抑えらるでしょう。
「イニシャルコスト」と一緒に覚えたい「〇〇コスト」
社会生活においては、さまざまなところでコストがかかっているわけですが、「イニシャルコスト」以外にも「〇〇コスト」と呼ばれているものがあります。
ライフサイクルコスト
「ライフサイクルコスト」は、簡単にいうと「イニシャルコスト+ランニングコスト」ですが、この場合のランニングコストは、建物や車など、解体や廃棄に費用がかかるものは、その分のコストも含まれます。
レガシーコスト
「レガシー=legacy」は「相続財産」「遺産」の意味をもつ単語です。「レガシーコスト」は主にビジネスシーンで用いられている言葉で、過去のしがらみから生じる負の遺産になります。
例えば、リコールや商品の事故による保障費用、退職した元社員に支払う健康保険や企業年金などがあります。
サンクコスト
「サンク=sunk」は、「救いようがない」「すっかり駄目な」の意味をもつ単語で、「サンクコスト」は、埋没費用とも呼ばれています。たとえば、Aという生産ラインを造ったが、仕様を変えて造ったBのラインしか使わなくなったとします。そうすると、コストをかけて造ったAはすっかり無駄なものになりますよね。この場合は、Aにかけたコストが「サンクコスト」になるわけです。
スイッチングコスト
「スイッチング=switching」は、「切り替え」「交換」の意味をもつ単語で、「スイッチングコスト」とは、これまで使っていた製品を別のものに買い替える際に必要となるコストのことをいいます。「スイッチングコスト」には、物理的な費用だけでなく、製品を検討するためにかけた時間や労力も含まれます。
「イニシャルコスト」の使い方・例文
「イニシャルコスト」を文章や会話の中で使うのは難しくないと思いますが、参考までに例文をいくつか紹介しておきます。
・関西支社を立ち上げた際のイニシャルコストはどのくらいだった?
・イニシャルコストは大幅に抑えて始めた事業だったが、想像異常にランニングコストがかかってしまった。
・イニシャルコストが高すぎるという理由で新工場建設は見送られた。
「イニシャルコスト」の類語・言い換え
「イニシャルコスト」を日本語で言い換える場合は、次のような表現ができます。
・初期費用
・初期投資
・開発費
・導入費
・準備費用 など
「インベスト=invest」は、「投資する」「出資する」の意味をもつ言葉です。投資というと、株式や投資信託など、利益を求めての投資を想像しがちです。しかし、新しく何かを始めることも、ある意味なんらかの成功を求めて出資するので、最初にお金をかけるという点において類語といえます。
「イニシャルコスト」と「〇〇コスト」を正しく理解しよう
新しく何かを始める場合は、「イニシャルコスト」を考えるのは当然のことです。しかし、あとあと予想以上の出費にならないようにするために、「ランニングコスト」も同時に考える必要があります。特に、事業を始めた場合、「ランニングコスト」が高ければ「イニシャルコスト」の回収に時間がかかり、なかなか黒字経営にはなりません。また、さまざまなコストもかかってくるので、本記事で紹介した「〇〇コスト」なども併せてしっかりと理解しておきましょう。