「ミスディレクション」とは「誤認に導く言動・手法」のこと
「ミスディレクション」は、ディレクションをミスすることと想像はできますが、日本語では、「人を誤った方向に導く手法」や「誤った指導を行うこと」を意味する言葉です。ミスディレクションを使うもので代表的なのは、観客の注意をそらしてなんらかの仕掛けをする、マジック・手品です。さらに、ビジネスやスポーツなどでも「ミスディレクション」が使われています。
本記事では、ミスディレクションの分野ごと意味や種類のほか、使い方、英語、類語、言い換え表現などもわかりやすく紹介します。
「ミスディレクション」の英語は「misdirection」
「ミスディレクション」は「misdirection」と表記しますが、「mis=誤った」と「direction=方向、向き」を合わせて生まれたといわれおり、次のような意味をもつ単語として使われています。
・誤った指図
・誤った方向に向かう
・宛先間違い
「misdirection」を使った言い方も少し紹介しておきます。
・Words and actions that lead to misdirection.
(ミスディレクションを招く言動)
・misdirection of a letter(手紙の宛先間違い)
日本語においての「ミスディレクション」とは
日本でカタカナ用語として使われている「ミスディレクション」は、広くは「人を誤った方向に導く手法や、誤った指導を行う」の意味ですが、厳密には三種類に分類できます。
ミスディレクション
一般的な「ミスディレクション」は、何かをして人の注意をそらすことで、日常生活の中にも存在します。すべての人に当てはまるわけではないですが、例をいくつかあげておきます。
・小さな子供の髪を切るとき、大人しくさせようと気をそらせるためにその子が好きなアニメを見せる。
・推理小説で、真犯人がわからないよう、別の人を犯人のように物語を進める。
・「あれ何?」と遠くを指さして相手の気をそらしている間に物を隠す。
フィジカルミスディレクション
人間は、早く動く物や音のした方向を自然に見てしまう習性があります。特に大きな音がしたときは、反射的にパッと顔を向けるものです。その効果を利用して気をそらせる手法を「フィジカルミスディレクション」といいます。
・マジックの会場の観客席の後方で大きな音を鳴らし、ステージ上から物を消す。
タイムミスディレクション
ある発言に対し、時間を空けて忘れた頃に結果を出すと、心の中を読まれたような感覚に陥ります。このような手法を「タイムミスディレクション」といいます。これは、サプライズでプレゼントをする際によく使われる手法です。
・シルバーウィークにウィンドウショッピングをしていた際、彼女が欲しそうにじっくり見ていたバッグをクリスマスにプレゼントした。
サイコロジカルミスディレクション
「サイコロジカル」には、「心理的な」の意味があります。つまり、「サイコロジカルミスディレクション」とは、人の心理を利用したミスディレクションのことです。
・箱の中にサイコロを入れたフリをし、箱を振ってカランカランと音が鳴ると、近くの別の場所で音を鳴らしていても、箱にサイコロがあると思ってしまう。
分野によっても異なる「ミスディレクション」
「ミスディレクション」は、広い意味では「誤認に導く言動・手法」の意味をもっていますが、分野によって詳しい意味合いが異なるので、きちんと区別して理解しなければなりません。
「マジック」においてのミスディレクション
左手に注目させて、右手でタネを動かすなど、マジックの技法は、ミスディレクションによって成り立っているといっても過言ではありません。小さなテーブルで行うようなものも、大がかりな仕掛けを必要とするものも、ミスディレクションの能力が高いほど優れたマジシャンといえます。
「ビジネス」「教育」でのミスディレクション
ビジネスシーンや教育の現場においては、「誤った指導」のことを「ミスディレクション」と呼ぶケースがあります。しかし、ビジネスの場では、打ち合わせなどで、触れてほしくない話題になりそうなときに、ほかの話に方向転換させるように導くことをいう場合もあるので、状況に応じて解釈を変えなければなりません。
「文学」でのミスディレクション
文学の世界、特に小説の中では、冒頭で結末がわかってしまっては面白くありません。そのため、読者にさまざまな考え方をさせるように物語を進めていくのが一般的です。これを「ミスディレクション」といいます。
「スポーツ」でのミスディレクション
バスケットボールやサッカーで、前の選手にパスを出すと見せかけて、後ろにパスしたり、バレーボールで左の選手にトスを上げると見せかけて、右の選手にアタックを打たせたりする、いわゆる「フェイント」と呼ばれている手法も「ミスディレクション」になります。
心理学での「ミスディレクション」とは?
心理学分野においての「ミスディレクション」は、Inattentional blindness(非注意性盲目)と呼ばれており、「視野に入っていても注意が向けられていたら見落としてしまう」現象のことを指します。過去に、ハーバード大学のダニエル・シモンズ博士とクリストファー・チャプリス博士が行った実験で、「見えないゴリラ」というものがあります。これは、白いシャツを着た人達と、黒い服を着た人達でバスケットボールのパスを行っている映像を見せ、白い服の人達のパスの回数を数えさせるという実験です。
この実験では、黒い服を着た人達の中にゴリラの着ぐるみを来た人が紛れ込んでいたのですが、パスを数えるグループは、白い服を着た人達に注目をしているため、約半数の人がゴリラの存在に気付かなかったというものです。
この実験により、人は、視野に入っているものすべてを認識することはできないという結果が導き出されたということになります。
「ミスディレクション」の使い方・例文
「ミスディレクション」という言葉自体は、日常やビジネスシーンではあまり登場しないかもしれませんが、一応例文で使い方をチェックしておきましょう。
・このマジシャンはミスディレクションが不自然すぎてすぐにタネがわかってしまう。
・この商品の価格については今は触れられたくないので、明日のA社との打ち合わせで話が出たらうまくミスディレクションしてくれよ。
・Bくんに行列ができるトンカツ屋の場所を聞いたのに、行ってみたら駐車場だったよ。ミスディレクションされちゃったね。
「ミスディレクション」の類語・言い換え
「ミスディレクション」を日本語で言い換えたい場合は、次のような表現ができます。
・誤認に導く言動や手法
・人の気をそらせる
・注意をそらせる
・誤った方向に導く
・指示間違い
・誤った指導
「ミスディレクション」と「ミスリード」の違い
「ミスリード」とは、人を誤った方向へ導いたり判断を誤らせたりすることを意味する言葉です。「誤解させる」「誤った方向へ導く」といった、ネガティブな意味で使われることも多いですが、「ミスリード」は、人の注意をほかの場所に向ける意味合いが強い点で違いがあります。
日常の中に隠れる「ミスディレクション」にも気をつけよう
職場での会議の場で、「あれ?いつの間にか話が変わっているな」と感じたら、どこかのポイントで相手がミスディレクションを使ったということです。そのほか、日常の中でも、電話をかけた相手に自分の息子や娘だと勘違いさせる「オレオレ詐欺」がありますが、これもミスディレクションのひとつです。注意深く観察していれば見抜くことができる場合も多いので、相手の言動には気をつけておきましょう。