ジョブディスクリプションとはどんな言葉?
ジョブディスクリプションは、「担当する職務の内容をくわしく書き記した書類」です。
類語は、「職務内容記述書」「職務記述書」。
英語で表すときは、「job description」を使います。
ジョブディスクリプションとはどんな意味?
ジョブディスクリプションは、次の意味をもつカタカナ語です。
ジョブディスクリプションは、その職種での仕事内容やどこまでがその人の仕事として含まれるのかの範囲、仕事の難易度、必要な経験やスキルなどをくわしく記した文書です。
ジョブディスクリプションは欧米ではあってあたりまえのもの
ジョブディスクリプションは、ヨーロッパやアメリカの企業ではあってあたりまえのものとされています。
それは、欧米では従業員を採用する前にその職務での仕事内容などの雇用条件を決めておき、その条件のもとで求職者と雇用の契約を結ぶ「ジョブ型雇用」で人材を採用する企業が多いため。
雇用の契約の条件をまとめたものが、ジョブディスクリプションです。
ジョブディスクリプションは日本でも増えている
日本企業の採用方法は、終身雇用を前提とする「メンバーシップ型雇用」が主流。「メンバーシップ型雇用」は、職務や勤務地などを限定しない雇用契約で求職者と契約を結び、採用後にいろいろな部署に配置転換しながら総合的な能力を持つ人材に教育していく手法です。
そのため、ジョブディスクリプションを導入している日本企業はほとんどありませんでした。
しかし、ビジネスのグローバル化により企業の外国人雇用が増えていることや成果主義、同一労働同一賃金の導入などにより、ジョブディスクリプションを使う企業が増えています。
・日立製作所
・資生堂
ジョブディスクリプションの記載例
ジョブディスクリプションには、その職種に就く人が担当する業務の内容や責任の範囲などが明確に書かれていて、それを読めばどのような環境でどんな仕事をするのか、イメージできるようになっています。
A4用紙1枚程度に収まるように、次のような事柄が、必要なことを漏らさず要点を絞って記載されます。
・職務の責任や役割、権限の範囲
・担当する業務一つひとつの具体的な内容
・業務における達成目標や成果として評価する基準
・必要な資格、スキル、経験
・必須ではないもののあると歓迎されるスキル、資格、経験
・想定年収や給与、待遇、福利厚生
・勤務地、勤務形態、勤務時間、テレワークの有無
・所属部署やチームの詳細
・その職務での具体的な指揮命令系統 など
ジョブディスクリプションの記載は漏れがないことが重要
ジョブディスクリプションに書かれていないことは、自分が引き受ける必要のないもの、自分には関係のないことであると思われやすいです。それを避けるため、ジョブディスクリプションは、その職種に関係する事柄を漏れなく詳細に書くことが重要。
例えば、給与に関してでは、資格やスキルの取得に伴う昇給があるのかどうかまで記載されます。所属部署やチームの詳細については、チームとして果たすべき使命や役割、目標、人数、働き方、扱う商品やサービス、取引先、顧客など、職務内容をイメージするために必要であろう事柄が書かれています。
指揮命令系統では、その職務に就く人が誰から指示を受け誰に報告するのか、部下を持つ役職の場合は誰に指示を出し誰から報告を受けるのか、ほかの職種や部門と連携する場合はその部署の担当者とどのように連絡を取るのかなどが記載されます。
しっかり書いておかないと、必要な連絡がされなくなり、組織としての連携が取れなくなってしまう事態があり得るので、ここまでくわしい書き方がされるのです。
ジョブディスクリプションの目的・メリット
ジョブディスクリプションを導入する目的は、それぞれの職務について詳細を決めることで、社員一人ひとりの待遇や仕事内容にあいまいさをなくすことです。
そうすると、仕事のなかにあった無駄や非効率な部分を減らせます。次のようなメリットも得られます。
会社としての生産性が上がる
ジョブディスクリプションを導入すると、それぞれの職務に最低限必要な資格やスキル、経験値がある人を、適材適所で割り振ることができます。人材をゼロから教育する手間を省いて、生産性がある程度高い状態からスタートできるのがメリットです。
また、自分の強みを活かせる職務につくことができた従業員は、モチベーションが上がりやすいため、そのことによっても作業効率がアップします。
さらに、職務の責任や役割、権限の範囲、担当する業務の具体的な内容がはっきり示されているので、従業員は自分がやらなくてもいいはずの仕事や、何のためにしているのかよくわからない無駄な仕事に時間や労力を取られずにすみます。自分の仕事に集中できるようになることでも生産性は上がります。
人材育成を効率よく行える
最低限必要とされる資格、スキル、経験を身に着けた状態から、従業員教育をスタートできるのもメリットです。ゼロの状態から教育を開始する仕組みよりも、人材育成にかかる時間や労力、費用を節約できるでしょう。
従業員側も、それぞれの職務で目標や評価基準、評価につながるスキル、資格、経験などがしっかり示されているため、今の自分と会社から求められている姿のギャップを把握しやすいです。企業、従業員どちらの立場からも、今後どの部分を伸ばしていけばいいのか課題がはっきりするので、人材育成やスキルアップの計画を立てやすくなります。
スペシャリストを育てられる
ジョブディスクリプションを導入した企業では、基本的には人事異動がありません。そのため、従業員は自分が担当する職務で長期間経験を積み、専門スキルを極めることが可能になります。
企業側も、その職務に特化した人材教育を継続的に行えるので、異動が多い日本の企業では育てるのが難しいといわれている、特定の分野のスペシャリストを育てやすくなります。
公平でスムーズな人事評価ができる
ジョブディスクリプションでは、その職務で成果としてみなす客観的な達成目標や評価基準が示されています。そのため、人事評価はそれぞれの従業員の業務で得られた結果が、その目標や評価基準を達成できているかどうかを判定するだけでよくなります。
誰が人事評価を担当しても同じ結果になる公平な評価ができ、人事評価にかかる時間も短縮可能。達成目標や評価基準は従業員にも公開されているので、従業員も自分の評価に納得しやすいです。
企業・求職者どちらにとってもいい人材採用ができる
ジョブディスクリプションで、企業が望む人材の姿や就職後の仕事内容などがはっきり示されているため、採用後のミスマッチが起きにくいです。
企業が求める条件に当てはまるかどうか、求職者自身で自己判断してから応募してきてくれるので、人材の選別にかける時間や労力の無駄を少なくできます。客観的な採用条件が示されているので、面接官の判断のずれも少なくなります。
人材を確保しやすくなる
勤務地、勤務形態、勤務時間、テレワークの有無などが定められているため、転勤ができずに退職してしまうなどの人材喪失を避けられます。
さまざまな雇用形態の職務を用意することで、能力はあるけれど家庭の事情などで正社員として働くのが難しい人材を確保することもできます。
ジョブディスクリプションのデメリット
ジョブディスクリプションは、いいことばかりではありません。メリットばかりをみてジョブディスクリプションを導入すると、こんなはずではなかったと後悔することになってしまいます。
デメリットもしっかりおさえておきましょう。
柔軟な仕事ができなくなる
ジョブディスクリプションをもとに雇用契約を結ぶと、従業員はそこに記載された内容以外のことは会社の指示に従う義務がなく、企業側もそれを強制することはできません。
そのため、どの職務のジョブディスクリプションにも書かれていない業務があった場合、その業務を誰がするのか押し付け合いになってしまう可能性があります。
また、時代や経営状況の変化などで業務内容を変える必要が出たときに、職務の変更に従業員が従わないことも考えられます。そうなると、従業員を解雇して、新たな人材を採用しなおさなければならなくなります。
チームワークが弱くなる
自分がやらなければならない職務内容や、何をすれば会社から評価されるのかがはっきりし、それ以外の業務を行う義務がなくなることで、自分の仕事に集中したいと考える人が増えます。
仕事で困っている同僚や後輩がいたとしても、手伝ってあげようという発想は生まれにくく、仮に手伝ってあげたいと思ったとしてもそれが相手の仕事を奪うことになる場合もあるため、手伝うのは難しいです。
結果的にチームで助け合うという精神が育たず、チームワークが弱くなりやすいです。
業務が属人化しやすい
特定の業務のスペシャリストが増えることで、業務が属人化しやすくなります。
業務が属人化すると、従業員がひとりいなくなるだけで業務が滞ってしまいます。キャリアアップのために転職する従業員が出たり、家庭の事情などで退職する従業員が出たりすると、長期間全体の業務に大きな影響が出てしまう可能性があります。
ゼネラリストが育てにくくなる
ジョブディスクリプションでは、さまざまな部署で経験を積むことが難しいです。
そのため、幅広い業務領域に関する知識や技術を持ち、多角的なものの見方ができるゼネラリストを育てるのには向いていません。
作るのが大変
ジョブディスクリプションを作るのはかなり大変です。
作成に取り掛かる前に、現場の従業員たちから業務内容や必要なスキル、責任、権限の範囲など、職務内容に関する情報収集を十分に行う必要があります。経営層から人事に関する方針を確認し、各部門の管理職、部門マネージャー、人事など複数の視点からの意見を収集しなければなりません。
そのうえで、部門マネージャー、人事が中心となり、「なぜ」「なにを」「どのように」行うのか、一つひとつの業務内容を洗い出していきます。ひとつの部署のことだけを考えていると部署間の連携が取れなくなるため、組織全体の業務を部署同士のかかわりも踏まえながら考えて、すべて網羅するジョブディスクリプションの草案を作ります。
草案ができたら、経営層、各部門の管理職、現場の従業員など関係者に内容を吟味してもらい、実際の業務とズレがないように内容を修正していきます。
運用が難しい
ジョブディスクリプションの契約内容に記されていなければ、従業員を異動させたり転勤させたりするのは難しいです。そのため、人が足りない部署が出たときやジョブディスクリプションに記載されていない業務がみつかった場合、新しい業務が必要になったときなど、不測の事態にどう対応するかも考えておかなければなりません。
また一度作って終わりではなく、一年に一回や半年ごとなど、定期的な見直しも必要です。実際の業務内容とずれが生じていないか確認したり、社会の変化や経営状況の変化に対応するための修正を入れたりしなければならないので、運用にもかなりの手間暇がかかります。
ジョブディスクリプションの使い方を例文で学ぼう
ジョブディスクリプションの意味や特徴がわかったら、次はカタカナ語としての使い方を例文でイメージしてみましょう。
・サンプルを参考にジョブディスクリプションを作成する。
・ジョブディスクリプションを求職者に明示する。
ジョブディスクリプションの類語・言い換え表現
ジョブディスクリプションを言い換えできるカタカナ語の類語はありません。日本語では「職務内容記述書」や「職務記述書」と訳されます。
・職務記述書作りには入念な準備が必要だ。
ジョブディスクリプションは英語だと?
ジョブディスクリプションは英語だと、「job description」と表記されます。
「job description」の「job」の意味は「仕事、役目」、「description」の意味は「記述、説明書」です。
ジョブディスクリプションの特徴を頭に入れておこう
ジョブディスクリプションの意味は、「担当する職務の内容をくわしく書き記した書類」です。
日本でもジョブディスクリプションを導入する企業が増えており、言葉を目にする機会も多くなっています。そのときに困ることがないように、意味や特徴を頭に入れておきましょう。