ヒヤリハットとは?語源、英語表現、言い換え、医療・看護・保育などの事例も紹介

「ヒヤリハット」とは「重大な事故や災害になったかもしれない危険な出来事」のこと

工事現場や工場だけでなく、運転免許取得の際にもよく耳にする「ヒヤリハット」は、「ヒヤリとする」「ハッとする」という擬音語から生まれた言葉で、「ヒヤリ・ハット」と表記される場合もあります。

これは、幸いにも重大な事故や災害にはならなかったものの、直結してもおかしくなかったほどの危険な出来事のことを指しており、さまざまな分野で実際にあった「ヒヤリハット」の報告などをもとに、未然対策が行われています。本記事では、言葉の語源、意味のほか、英語表現、各分野での事例などについてもわかりやすく紹介します。

「ヒヤリハット」の英語表現は複数ある

「ヒヤリハット」は、擬音語から生まれた言葉で、そのまま英語に訳すことはできません。そのため、英語で表現したい場合は「close call=間一髪のところ」「minor incident=小事件」などが使われます。

・There were reports of a close call.
(ヒヤリハットの報告があった。)
・There was a minor incident at our company.
(私たちの会社でヒヤリハットがあった。)

「ヒヤリハット」の語源・意味

幸い、大きな事故や災害にはならなかったものの、一歩間違えば重大になっていたかもしれない状況のときに発する「ヒヤリとした」「ハッとした」という言葉がもとになって生まれた「ヒヤリハット」は、再発を防止する意味も含め、各分野でさまざまな事例がまとめられています。

工場でのヒヤリハットとは

工場でのヒヤリハットは、ダンボール箱の開梱時に手や脚を切りそうになったという小さな作業中のものや、大型機械作業中に操作を間違えて巻き込まれそうになったなど、さまざまな事例があります。多くの場合、ちょっとした気のゆるみや確認もれが原因となっています。事務作業をしている人には想像がしにくいの思うので、どんなヒヤリハットがあるのかを少し紹介しておきます。

◆リフトで運搬する際、前進と後退を間違えた。
◆規定段数以上の箱を積み上げようとしたところ、傾いてしまった。
◆保護メガネを忘れて金属加工をしていたところ、破損した金属片が目のあたりに飛んできたが、視力矯正用メガネのおかげで怪我をせずに済んだ。
◆回転機器のスイッチをOFFにしてすぐふたを開けたところ、まだ回転が止まっておらずに巻き込まれそうになった。

医療・看護現場でのヒヤリハットとは

小さなミスでも患者の命にかかわる、医療や看護の現場においてもヒヤリハットは起こっており、事例が日本医療機能評価機構のホームページにまとめられています。医療従事者でない人が想像しやすいのは、薬の取り違えや、使用済みの針を間違えて使いそうになったなどでしょう。そのほかにもさまざまな事例があるので、詳しくは日本医療機能評価機構の医療安全情報をチェックしてみてください。
(参照元:公益財団法人日本医療機能評価機構 医療事故情報収集等事業 医療安全情報

介護でのヒヤリハットとは

介護現場では、医療や看護の現場とはまた違ったヒヤリハットが発生しており、このような事例が報告されています。

◆入浴中、お風呂場で要介護者が滑って転倒しそうになった。
◆歩道の段差で車いすが転倒しそうになった。
◆着替えの介助中、ズボンを履こうとしたお年寄りがバランスを崩した。

薬局においてのヒヤリハットとは

この場合の薬局とは、医療機関に併設されているような調剤薬局を主に指します。莫大な数の薬剤を取り扱う薬局では、同じ薬でも、患者によって一回の服用量や一日に飲む回数が異なったり、継続して飲む日数が異なったりします。そのため、次のようなヒヤリハットが事例としてあがっています。

◆薬剤の取り違え
◆計数間違い
◆薬剤の使用期限が切れていた
◆異物混入
◆患者間違い
◆説明間違い

(参照元:公益財団法人日本医療機能評価機能 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 報告書

保育園・学校でのヒヤリハットとは

危険なことへの認識が薄い、保育園児や小学校の低学年がいる現場では、思いもよらないヒヤリハットがあります。また、大勢の生徒を少人数の先生で見ているため、自分自身への注意が散漫になることも多いです。

◆保育園で部屋の片づけをしていたところ、急に足元に子供がまとわりついてきて、その子を巻き込んで転倒しそうになった。
◆脚立に登って高いところに絵の展示をしていたところ、子供が脚立に登ろうとしてぐらつき、落下しそうになった。
◆いろいろなものを一度に片づけようと前が見えないほど物を持っていたところ、段差が目に入らず、つまずき、転倒しそうになった。

日常でのヒヤリハットとは

ヒヤリハットの事例は、主に仕事場や教育現場などのものが報告されていますが、日常生活の中でもヒヤリハットはあります

◆急いで階段を降りていたところ、ズボンの裾に靴がひっかかり、落ちそうになった。
◆エレベーターの扉の隙間に指が挟まれそうになった。
◆キッチンで包丁を持ち運ぶ際、あやまって足の上に落としそうになった。
◆部屋の蛍光灯を取り換えようと、キャスターつきの椅子に登ったところ、動いて落ちそうになった。

厚生労働省も情報管理しているヒヤリハット

厚生労働省が運営する公式サイトの中には、「職場のあんぜんサイト」「家内労働あんぜんサイト」があり、報告のあがっているヒヤリハット事例がまとめられています。自社で事例がない場合でも参考にすることで、未然に防ぐことができます。

職場のあんぜんサイト

トラックでの荷積み・荷下ろし、倉庫での作業、調理場、工事現場など、さまざまな職場でのヒヤリハットが報告されており、原因や対策までが公開されています。また、このサイトに掲載されている事例は、コピーしてワードやエクセルに貼り付けられるようになっているので、社内研修の資料作成時に利用することも可能です。
(データ参照元:厚生労働省 職場の安全サイト ヒヤリ・ハット事例

家内労働あんぜんサイト

家内労働とは、一般的に家内労働者の自宅を仕事場となっており、仕事場の安全管理は家内労働者自身が行っています。しかし、現場での事故などに対し、委託者にまったく責任がないわけではなく、委託者が作業のために譲渡している機械や材料などによる事故を防ぐべく、安全措置を行う必要があります。しかし、ヒヤリハットはゼロではなく、さまざまな報告があがっており、「家内労働あんぜんサイト」に事例集として掲載されています。
(データ参照元:厚生労働省 家内労働安全サイト ヒヤリハット事例

「ヒヤリハット」の使い方・例文

「ヒヤリハット」は、用語というより出来事になるため、会話の中にそのままの形で登場することは少ないですが、使い方としてはこのようなものがあります。

例文

・工場内での事故が起こらないよう、社内研修でヒヤリハット事例に基づく講習を行った。
ヒヤリハットの再発が起こらないよう、各工場から事例を報告をさせた。

「ヒヤリハット」の類語・言い換え

「ヒヤリハット」をほかの言葉で言い換える場合は、次のようなものが使えます。

ヒヤリハットの言い換え表現

・肝を冷やす
・肝が縮む
・身が縮む
・冷や汗をかく
・ヒヤヒヤする
・ヒヤッとした

ヒヤリハットを分析したハインリッヒの法則とは

アメリカの損害保険会社で技術や調査に携わっていた、ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒが提唱した法則のことをいいます。

内容は、工場で発生した数千の労働災害を統計学的に調査したところ、一つの重大事故の背景には、軽い事故が隠れており、さらにその背景に事故になりそうだった異常事態が300件は潜んでいるという結果にいったったというもので、この300件が「ヒヤリハット」にあたります。

ヒヤリハット活動で重大事故を防ごう

職場でなんらかの作業をしている中で、「ヒヤッとした」出来事は意外とあるものです。社内でヒヤリハットの事例を集め、原因と対策を認識する「ヒヤリハット活動」を行えば、重大事故を防ぐことができます。また、たくさんの事例が集まらなかった場合には、各都道府県に設置されている労働局の公式サイトでも事例として公開している場合があるので、それらを参考にするのも一つの方法です。

しかし、活動を行っただけでは意味がありません。現場での事故ゼロを目指し、どうすればヒヤリハットが起こらないかもしっかりと検討していきましょう。