「ダブルバインド」とは「二重拘束」のこと
「ダブルバインド」とは、「二重拘束」という意味で、矛盾する二つのメッセージを受け、どのようにすればいいのか分からず身動きが取れない状況を指す言葉です。たとえば、好きなものを買っておいで、とお小遣いを渡したのに、買ってきたものについて「そんなものを買って!」と怒る、というような行為などがあり、このようなメッセージを受けた側には大きな精神的ストレスがかかることが多いため、心理学用語として広く使われています。
本記事では、正しい意味や使い方のほか、ダブルバインドを受けたときの対処法や、日常的な事例などについてもわかりやすく解説します。
「ダブルバインド」の英語は「double bind」
「ダブルバインド」は英語では「double bind」と表記します。これは、昔、イギリス出身でアメリカに移り住んだ文化人類学者、グレゴリー・ベイトソンが、よって生み出された造語です。家庭でのコミュニケーションがダブルバインドのパターンになっていると、その状況下で生活している人は、統合失調症のような症状になると発表しました。そのため、英語圏においても「二重拘束」の意味で使われています。
また、「double bind」は、「double=二重の」「bind=縛る」という二つの単語から成り立っているので、それぞれの意味を見てもわかりやすいでしょう。
ビジネスシーンおいての「ダブルバインド」とは
ビジネスシーンにおいても、どちらを信じればいいのか、どちらに従えばいいのかがわからない状況を指しますが、この「ダブルバインド」にはある定義が存在しています。
◆二人以上の人の間で行われる。
◆最初に否定的なメッセージが出される。
◆二番目に最初とは矛盾するメッセージが出される。
◆三番目に、一番目、二番目の状況から逃げることを禁止するメッセージが出される。
◆一番目から三番目の、矛盾したメッセージが繰り返し出される。
◆メッセージを受けた人がダブルバインドによりストレスを感じるようになる。
◆メッセージを受けた人がダブルバインドの状況にあると認識できれば抜けられる。
なお、強い心理的ストレスがかかる可能性が高いダブルバインドは、ビジネスシーンではパワハラやモラハラにつながっていくということを認識しておく必要があります。
ビジネスシーンで起こりがちなダブルバインド
たとえば、「わからないときはすぐに聞きにきて」と言われ、実際に聞きに行ったら「自分で考えて行動しなさい」と言われた経験はありませんか?これは一種のダブルバインドであるといえます。
また、「また手伝ってもらってるのか?もう一人でこなしなさい」と言われ、時間をかけながらも一人で作業しているときに、「出来ないなら手伝ってもらいなさい」と声をかけるのもダブルバインドです。
プラス効果のある「エリクソニアン・ダブルバインド」とは?
ダブルバインドは、悪影響を及ぼすだけではなく、使い方によっては肯定的な効果をもたらす場合があります。たとえば、「商品Aと商品Bのどちらがいいですか?」と質問すると、たとえCやDがあってもAかBで答えてしまいますよね?このように、メッセージを送る側が選択肢を最初から限定しておくことで、欲しい答えを導きやすくする方法が、肯定的なダブルバインドで、「エリクソニアン・ダブルバインド」と呼ばれています。
ダブルバインドを受けたときの対処法
「ダブルバインド」は受け続けていると強いストレスになります。もし気付いたときは、自身で可能な限り対処することをおすすめします。
対処法その1:期日のない仕事の依頼は日程を定めてもらう
「手があいているときにでもやっておいて」と仕事を頼まれることがありませんか?しかし、そんな場合に限って「いつできる?」と聞かれるものです。このようなダブルバインドを防ぐためにも、大まかでもいいので日程を定めるようにしましょう。
対処法その2:相手に選択肢を与える
「ちょっと相談したいことがあるから時間とってくれる?」と言われても、ほかに仕事が立て込んでいれば、どうしても後回しにしてしまいます。そうなれば「いつ時間がとれるんだ?!」とキレられてしまうかもしれません。そうならないためにも、自身で都合の良い日をピックアップして相手に選んでもらいましょう。急ぎであるなら相手から希望の日程を伝えてくるでしょうから、自身の責任はなくなります。
対処法その3:疑問に思ったら相手の言動を分析してみる
メッセージを与える側は、強い言葉になっていることがほとんどであるため、受けた側は相手のほうが正しいのだと思いがちです。しかし、「矛盾しているかも?」と感じた場合はこれまで言われたことを一度まとめてみましょう。もし勇気があるなら、言われたことを時系列で説明し、何を求めているかを確認してください。
「ダブルバインド」の使い方・例文
「ダブルバインド」は会話の中ではあまり登場しないかもしれませんが、間違った使い方をしないためにも、例文をいくつか紹介しておきます。
・上司からのダブルバインドに耐え切れず、同僚が退職してしまった。
・先輩から言われることがダブルバインドであると気付いたため、今後は、言われた内容を時系列で書き留めておくことにした。
・新人へのダブルバインドに気付いたため、上司に指摘した。
「ダブルバインド」の類語・言い換え
ダブルバインドを日本語で言い換える場合は、「二重拘束」や「矛盾する命令」などがありますが、カタカナ用語の類語には「ダブルスタンダード」があります。
「ダブルバインド」と「ダブルスタンダード」の違い
ダブルスタンダードとは、相手によって意見を変えたり、対象によって基準を変えたりすることをいいます。
たとえば、自分に対しては、手順に沿った手続きを要求してくるのに、気に入っている同僚は手順に従わなくてもOKにするといった行動は「ダブルスタンダード」です。一人に対して行われていることではないですが、内容が矛盾している点で、ダブルバインドと類語といえます。
【番外編その1】子育てにおける「ダブルバインド」
子育て中の母親がしがちなダブルバインドとしては、次のようなものがあります。
◆「早く宿題をしなさい」と言っておきながら「ちょっとは手伝って!」と𠮟る。
◆「なんでも好きなものを買っていいよ」とお小遣いを渡したのに、買って帰ると「そんなものを買って!」と言う。
◆言うことを聞かない子に「好きにしなさい」と言って、好きなことをしていると怒る。
しっかりと自分の考えを持っている子供であればあまり心配することはありませんが、素直な子であればどっちが正しいのか理解出来ず悩んでしまい、ストレスをため込むことになります。
【番外編その2】恋愛における「ダブルバインド」
デートの時に彼に「食事どこに行く?」と言われて「どこでもいい」と答えた後、普通の居酒屋に行って不機嫌になったり、「どうして居酒屋?!」と文句をいう女性もいます。これも一種のダブルバインドです。彼氏の対処方法としては、「どこでもいい」という返事をもらったら、「居酒屋にする?中華にする?」といった選択肢を与えると、ダブルバインドの回避になります。
使い方に注意しながら「ダブルバインド」を活用しよう
肯定的なダブルバインドは、使い方次第で営業の手法になりますが、その場の感情で矛盾を投げかけると否定的なダブルバインドとなります。もし、ダブルバインドを受けている場合でも、かわし方を覚えておけば、自分自身の身を守れますし、他人を助けてあげることもできるので、しっかりと身につけておいてください。