パタハラの意味とは?事例や対策、厚生労働省の取り組みなども解説

パタハラとはどんな言葉?

パタハラの意味は、「育児休業制度等の利用を希望する男性社員への嫌がらせ」です。

類語は「マタハラ」「ケアハラ」。これらは、似ているけれど言い換えには使えない別の言葉です。

英語で表すときは、「paternity harassment」を用います。

パタハラとはどんな意味?

パタハラは、次の意味をもつカタカナ語です。

パタハラ
男性従業員が、育休や育児時短など育児のために設けられた制度の利用を希望したり、それらの制度を実際に利用したりすることで会社から不利益な扱いを受けたり、上司や同僚から嫌がらせを受けたりすること

パタハラは、父性を意味する「パタニティ」と嫌がらせを意味する「ハラスメン」を組み合わせて作られた、パタニティハラスメントの略語です。

パタハラの例

職場で次のようなことをすると、パタハラといわれてしまいます。どのようなことがNGなのか具体例をみてみましょう。

NG例:制度利用を妨害する
・上司が部下に向かい、日ごろから男性は育休を取得しないようにといっている
・男性社員が育休取得を希望したときに、「男性が育休を取得するのはおかしい」などの発言をする
・男性社員が育休取得を希望したときに、「ほかの社員に負担がかかる」などいい諦めさせようとする
・男性社員が育休取得を申請したときに会社がそれを認めない
NG例:不利益な取扱いをほのめかす
男性社員が育休取得を希望したときに、「昇進できなくなる」「責任のある仕事は任せられなくなる」など、不利益な取扱いをほのめかす
NG例:制度利用を理由に嫌がらせする
・育休取得を理由に、男性社員に退職を迫ったり、解雇をにおわすパワハラ発言をしたりする
・育休取得を理由に、男性社員に対して本人の意思に沿わない転勤や異動を命じたり、降格や減給にしたり、昇進の機会を与えなかったりする
・育休取得を理由に、正社員を非正規雇用社員にするなど、本人の意思に沿わない労働契約内容の変更を強いる
・育休取得を理由に、期間を定めて雇用されている男性の契約更新をしない
・育休取得を理由に、更新回数制限付きの有期雇用契約で働く男性の更新上限回数を引き下げる
・育休取得を理由に、育休明けの男性社員に対して、簡単な業務しか与えなかったり仕事をさせなかったりする
・育休を取得した男性社員に対して嫌がらせや嫌味な発言を繰り返す

例は育休取得で挙げましたが、子の看護休暇や育児時短勤務など、ほかの子育てのための制度でも男性の利用を妨害したり、利用を理由に不利益な取扱いをほのめかしたり、嫌がらせをしたりすれば同じようにパタハラになります。

パタハラは法律違反

育児・介護に携わる労働者に関する日本の法律「育児介護休業法」では、事業主に次のようなことを「しなさい」または「してはいけない」と定めています。

事業主がしないといけないこと
雇用している従業員が、育児休業やそのほか子どもの養育のために国が定めている制度や措置を利用すること、また利用を希望することによって身体的精神的な苦痛を受け、職場で能力を発揮できなくなることがないように当該従業員の相談に乗り、適切な対策をとらなければならない。

身体的な苦痛とは、わざとぶつかる、ものをなげつけるなどの暴力。精神的な苦痛とは、何度も大声で怒鳴る、必要以上にくどくどと厳しい叱責を何度も繰り返す、無視し続けるなど、相手の人格や名誉を傷つけることをいいます。

事業主がしてはいけないこと
子どもの養育のために国が定めている制度を利用すること、また利用を希望することを理由に、解雇など労働者の権利の行使を妨げる扱いをしてはならない。

パタハラは、この「育児介護休業法」に違反する行為であることがわかりますね。

パタハラで訴えられることも

制度利用を希望する男性社員を上司や同僚などがいじめるパタハラを企業が放置したり、会社として男性の育休申請を認めないなどのパタハラを行ったりするのは法律違反です。

社会一般の労働者が看過できないと感じるほどの行き過ぎたパタハラは、裁判になったり、行背指導の対象になったりする場合もあります。

パタハラの事例

実際に企業で起こり、大ごとになってしまったパタハラの事例を紹介します。

パタハラの事例:アシックス

この事例は、大手スポーツ用品メーカー アシックスに勤める男性社員が、ひとり目の子と二人目の子が産まれたときにそれぞれ1年間ずつ、計2回の育児休業を取得したことで起こったパタハラです。

詳細

男性は、1度目の育休から復帰すると、子会社の物流センターへの出向を命じられ、育休前までに担当していた仕事内容とはまったく関係のない荷下ろしや梱包などの業務を命じられました。

この業務命令が不当であると感じた男性は、弁護士を通じてアシックス側にパタハラを訴えでます。それにより男性は本社に戻れたものの、与えられた仕事は社内規則の更新やその英訳など、以前の仕事とは関係のないものでした。

この状態のまま男性は2度目の育休を取得し、復帰後はまた男性のキャリアとは関係のない業務を命じられました。

男性は、物流センターへの出向や与えられた業務がパタハラにあたるとし、アシックスに損害賠償440万円などを求める訴訟を起こしました。

結果

この裁判は、アシックスが育児休業を取得しやすい職場環境作りに努めることを表明したことを受け、男性が和解に応じ終了しています。

パタハラの事例:カネカ

この事例は、大手総合化学メーカー カネカの男性社員が、育休復帰2日目に東京から関西への転勤を命じられたことで起こった騒動です。

詳細

男性の家庭は、育休復帰の前の週に、新築した新居に社宅から引っ越したばかり。夫婦は共働きで、奥さんは翌月都内の会社に正社員で復帰予定。上の子どもは保育園に入りたての慣らし保育中、下の子は翌月入園することが決まっていたのだそうです。

この状況で3週間後に転勤するよう命じられた男性は、転勤に1〜2ヶ月の猶予をもらえないか会社に交渉しますが、却下され退職を決めます。男性は退職願を提出後に、未消化分の有給休暇を使えるように退職日を翌月にずらすことを会社に交渉するも、これも却下されたそうです。

会社の対応に不満を感じた男性の妻が、カネカの社名をほのめかしたうえでこれらの事柄をTwitterに投稿したことで注目を集め、カネカは瞬く間に炎上状態に陥りました。

カネカ側はこの転勤は男性が育休を取得する前から検討されていたこと。その後、男性が育休に入り、育休明けすぐの内示になってしまっただけで、違法性はないと公にコメントを出しています。

結果

このトラブルは裁判沙汰にはなっていませんが、炎上したことでカネカは株価が一時下落するなどの影響を受けました。

パタハラの事例:三菱UFJモルガン・スタンレー証券

この事例は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で特命部長として勤めていた男性の外国人社員が、法的には結婚していない外国人パートナーが外国で出産するため、育休を取得しようとしたことが発端で起こりました。

詳細

会社側は、母子手帳がないことを理由に男性の申請を拒否しました。子どもが生まれた後、DNA鑑定書を提出したことで男性の育休取得は認められますが、子どもが生まれた日にさかのぼって手続きしてもらうことはできず、育休が認められるまでに出社しなかった日数は有給と欠勤として処理されたそうです。

さらに育休から復帰後、男性は職場で仕事に必要なミーティングの時間を教えてもらえない、海外出張をなしにされるなどの対応をされ、うつ病を発症。うつ病の治療のため休職し、その後復職可能の診断書をもらいますが、会社側は男性に賃金支払いなしの休職命令を出しました。

男性はこれらがパタハラにあたると主張し、会社を提訴。記者会見も行いました。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、業務の変更は育児に注力できるように気遣った結果で、休職命令は従業員の安全と健康に配慮する「安全配慮義務」によるものであったと、パタハラを否定。そして、男性の会見での発言が会社の信用と名誉を傷つけたことなどを理由に、男性を解雇しました。

結果

裁判は、一審二審ともにパタハラを主張する男性の主張が認められず、休職命令や解雇も合理的な理由があると判断されています。

男性は、最高裁まで争う意向を示しています。

パタハラの対策

パタハラを予防するための対策や、パタハラが起きてしまったときの対応方法をおさえておきましょう。

予防のための対策

パタハラを予防するためには、男性社員が育休を取得するための会社としての制度を作る必要があります。

就業規則などにパタハラの内容やそれを禁止すること、パタハラを行ったものに対する処分などを明記しましょう。

さらに、パタハラの相談窓口を設け、社員からの相談に適切に対応できる体制を整えることも重要。社員の意識を変えるため、男性の育休取得について、社内で啓蒙活動を行うことも大切です。

起きてしまったときの対応方法

パタハラが起きてしまったら、プライバシーに配慮したうえで被害を受けた男性社員とパタハラをした社員、それぞれから迅速かつ正確に事実確認を行い、どう対応するかを速やかに検討しましょう。

方針が決まったら、被害を受けた男性社員に誠実に対応し、加害者には適切な指導や処分を行います。

パタハラが起きてしまった原因を分析し、再発防止策を検討、実施することも重要です。

厚生労働省のパタハラ対策

厚生労働省では、職場でのパタハラを防止するための情報発信を積極的に行っています。

例えば、こちらのサイトではパタハラの実態を動画で紹介しており、上司や同僚として、また制度を利用する側の男性社員として、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。 参考 動画で学ぼう「パパの育児休業取得等ハラスメントの実態」あかるい職場応援団

さらに、こちらのサイトでは男性の育休が何のためのどのような制度なのかなど、従業員、企業それぞれに向けた男性の育児休業に関するよりくわしい情報が発信されています。 参考 イクメンプロジェクト厚生労働省

参考にしてみてください。

パタハラの使い方を例文で学ぼう

パタハラの意味や詳細がわかったら、次はカタカナ語としての使い方を例文でイメージしてみましょう。

例文
パタハラと受け取られても仕方ないような対応がとられている会社はまだまだ多い。
・会社でパタハラが横行していることが判明した。
パタハラをめぐる訴訟が増えている。
パタハラ裁判の判例を調べる。

パタハラの類語・言い換え表現

パタハラの類語は、「マタハラ」「ケアハラ」です。しかし、この2つの意味はパタハラの意味に似ていますが、同じではありません。言い換えには使えない別の言葉です。

マタハラ
【意味】
働く女性が妊娠・出産・育児をすることで、職場の上司や同僚から嫌がらせを受けたり、退職するようにいわれたりすること

【例文】
職場でマタハラを受けたと告発した。

「マタハラ」は、「マタニティハラスメント」の略語です。

ケアハラ
【意味】
働きながら介護をする人に対して職場の上司や同僚などが行う嫌がらせや、退職を促すなどの不利益な扱い全般のこと。介護職員が、サービス利用者や家族から暴言や暴力を受けることを意味する場合もある

【例文】
ケアハラに悩む職員の相談が増えている。

「ケアハラ」は、「ケアハラスメント」の略語です。

パタハラは英語だと?

パタハラは、英語だと「paternity harassment」と表記されます。

paternity harassment
パタニティハラスメント

「paternity」の意味は「父であること、父性、父系」、「harassment」の意味は「悩ますこと、嫌がらせ、悩み」です。

パタハラをしないように意識を変えよう

パタハラは、「育児休業制度等の利用を希望する男性社員への嫌がらせ」を意味します。

パタハラは「育児介護休業法」に違反する行為で、行き過ぎたパタハラをしていると相手に訴えられる場合もあります。男性が育児に参加することに対する意識を変え、パタハラをすることがないように自分の言動に注意を払いましょう。