インクルージョンとはどんな言葉?
インクルージョンの意味は、「包括」「包含」「一体性」です。
類語は「インクルーシブ」。対義語は「エクスクルージョン」です。
インクルージョンを英語で表すときは、「inclusion」を使います。
インクルージョンとはどんな意味?
インクルージョンは次の意味をもつカタカナ語です。
・包含
・一体性
インクルージョンは、集団に属する人が、特別な事情を抱えている人も含めて全員、その集団のなかで疎外されることなく存在できて、お互いに関わり合いながら集団の一員として機能している状態を意味します。
もともとは社会的弱者を支えるための考え方
インクルージョンは、社会・福祉の分野で最初に使われるようになったといわれています。
1970年代のフランスは、戦後の復興が進み福祉国家としての制度も整ってきていました。しかし、そのような状況のなかでも弱者は社会からはじき出されてしまっていたことから、社会的排除を意味する「ソーシャル・エクスクルージョン」という言葉が生まれます。
1980年代にはいると、ヨーロッパ全体で「ソーシャル・エクスクルージョン」が大きな問題になりました。
このときに、「ソーシャル・エクスクルージョン」の対義語として、「ソーシャル・インクルージョン」という言葉が考え出されます。「ソーシャル・インクルージョン」は、「ソーシャル・エクスクルージョン」の問題を解決するための社会政策のコンセプト(基本的な方向性)として、ヨーロッパ全土で広く使われるようになりました。
ソーシャル・インクルージョンの意味
「ソーシャル・インクルージョン」の意味は、「社会的弱者を社会のなかで支え、誰も排除されず全員が社会に参画する機会を持つこと」。
社会的弱者には、ニートを含む若者の失業者や貧困に陥っている労働者、障害者、移民など社会的格差の対象になるすべての人が含まれています。
教育分野でのインクルージョン
1990年前後、社会・福祉の分野の「ソーシャル・インクルージョン」の考え方が教育分野にも広がり、「インクルージョン」という言葉として世界的に広く認知されるようになります。
「インクルージョン」は、学校生活を行うために特別な支援が必要な子どもたちも、通常学級のなかでほかの大勢の子といっしょに授業を受けられるように、多様な教育形態をとること。
特別な支援が必要な子どもたちとは、戦争や虐待の犠牲になっている子どもや貧困のため学校に行くのが難しい子ども、いじめの被害者、授業についていくのが難しい子ども、障害児などのことです。
インクルージョン教育
インクルージョン教育は、障害がある子どもと、障害がない子どもを同じ教室で学ばせる教育方法です。
インクルージョン教育は、ただ同じ場所にいさせて授業を受けさせるだけでは不十分です。障害がある子も含めて、個々の子どもたちがみな学習内容を理解できる授業を理想としています。
インクルージョン教育では、すべての子どもが「授業についていけている」と感じながら、充実した学習時間を過ごせることが重要。
障害のある子どもは、発達度合いに合わせたサポートを受けながら、可能なかぎり通常のカリキュラムにのっとった勉強をすることを目指します。障害のない子に対しても、ひとり一人の子どもの学習ニーズに合わせた指導が行われます。
インクルージョン教育を行うことで、障害のある子どもの能力を最大限引き出すことができ、学校卒業後の社会に効果的に参加できるようになります。障害のない子どもたちは、障害者に対するポジティブな認識を持ちやすくなり、共生社会への理解を深められると考えられています。
ビジネスでのインクルージョン
1990年代ころ、ビジネスの分野でもインクルージョンという言葉が使われはじめます。
ビジネスでのインクルージョンの意味は、企業に所属するすべての従業員が分け隔てなく均等に仕事に参画する機会を持ち、互いにそれぞれが持つ経験や能力、考え方を認め合い、グループのなかで一体感を持って働いている状態。
インクルージョンが社風になっている企業では、性別や人種、年齢、学歴、障害のあるなし、子どもがいるいない、性格、文化、価値観、性的指向などの違いはすべて個性として考えられます。違っていることで従業員を差別することはありません。従業員のひとり一人が、組織のなかで自分らしくいられて、会社に貢献している実感を持てます。
インクルージョンを実現させる対策の具体例
インクルージョンを実現させるには、企業は次のような対策を取る必要があります。
・年代や役職に関係なく、すべての従業員が自由に意見をいえる社風を育てる
・相互に対等な関係を持てる社風を育てる
・従業員一人ひとりの得意分野などを把握するように努め、その情報をもとに適材適所の業務再分配を行う
・社内をバリアフリー化したり、通院休暇、産休、育休など社内の制度を整備したり、必要な体勢を整える
・インクルージョンに関する研修などを行い、社内の意識改革を進める
これらの対策を取ることで、事情を持つ従業員も働きやすくなり優秀な人材の確保がしやすくなるので、組織のパフォーマンスをアップできます。
インクルージョンとダイバーシティの違い
ダイバーシティの意味は「多様性」「相違点」。ビジネスでは、個々の人材が持つそれぞれ異なる能力や考え方を業務に活かすため、企業のなかに多種多様な人材を受け入れることを意味します。
インクルージョンとダイバーシティは、「多様性」という点は共通しています。しかし、ダイバーシティは人材を受け入れることに重点が置かれており、インクルージョンは人材を尊重し活用することを重視しているので、ニュアンスが異なります。
ダイバーシティには問題があった
ダイバーシティは、1960年代のアメリカで生まれた考え方です。アメリカは、移民が多いことで知られる国ですよね。
このころ、アメリカでは人種差別の解消を求める公民権運動によって、移民の権利が社会的に認められるようになり、企業も従業員として移民を受け入れる必要性に迫られていました。ビジネス界にダイバーシティの考え方が広まり、ダイバーシティを推進する企業が増加します。
しかし、ダイバーシティを推進した企業では、組織のなかに異なる属性を持つ従業員が増えることで、社員同士の軋轢や摩擦が生まれ、社内に異なる人材を排斥したり区別したりする動きが起きてしまいます。
ダイバーシティ&インクルージョンの考え方が生まれる
ダイバーシティによって問題を抱える企業が続出したことで、この問題を解決する方法として、ダイバーシティ&インクルージョンが生まれます。
ダイバーシティ&インクルージョンとは、ダイバーシティとインクルージョンを組み合わせた考え方で、多様性を持つ人材を組織に受け入れその人材が組織のなかで活躍できる状態を目指すことです。
現代では、インクルージョンとダイバーシティはセットで扱われるケースが非常に多く、ダイバーシティがダイバーシティ&インクルージョンの略語として使われることも増えています。
ダイバーシティについてくわしくは、こちらの記事で確認してください。
ダイバーシティとはどんな意味?ダイバーシティ&インクルージョンやダイバーシティマネジメントについても解説インクルージョンは英語だと?
インクルージョンを英語で表すときは、「inclusion」を使います。
・(社会的な)一体性、(人種や文化など)多様性の受け入れ
・中に含まれるもの、含有物、内包物、介在物
宝石でのインクルージョン
インクルージョンは、宝石の話でも使われます。
宝石でのインクルージョンは、宝石のもとになる鉱物の結晶が成長していく長い年月のうちや成長が終わった後に、内部に取り込んだ別の鉱物や液体、気体のこと。
インクルージョンが宝石の傷とみなされる場合もありますが、インクルージョンがあることで宝石の美しさや希少性が高まるケースもあります。インクルージョンは、宝石の個性といわれることが多いです。
インクルージョンの使い方を例文で学ぼう
インクルージョンの意味がわかったら、次はカタカナ語としての使い方を例文でイメージしてみましょう。
・さまざまなユニバーサルデザインを採用した、インクルージョンなオフィスをデザインする。
・インクルージョンへの対応がダイバーシティ推進の鍵だ。
・福祉分野でのインクルージョンの事例を調べる。
・公民の授業でインクルージョンとは何かを学ぶ。
インクルージョンの類語・言い換え表現
インクルージョンの類語は、「インクルーシブ」です。
「インクルーシブ」は、インクルージョンと同じく「ソーシャル・インクルージョン」から生まれたカタカナ語。インクルージョンと同じニュアンスで使います。
インクルージョンの対義語
インクルージョンの対義語は、「エクスクルージョン」です。
・除外。排除
・入国拒否
【例文】
自分と違うものをエクスクルージョンすることなく受け入れる。
インクルージョンは企業名にも使われている
インクルージョンは、企業名として使われることもあります。
インクルージョン・ジャパン株式会社は、ベンチャー企業に投資するファンド。大企業とベンチャー企業がコラボするビジネスのサポートなども行っています。
あらゆる人の可能性を包み込み実現させることを目指す、インクルージョンの考え方に共感し、社名がつけられました。
インクルージョンはビジネスで重要になっている考え方
少子高齢化による働き手の不足やグローバル化によって、日本の企業もさまざまな特徴をもつ人々を従業員として受け入れる必要に迫られています。
そのため、多様性のある人材が社内で一体となって活躍できるように対策を取り、インクルージョンを推進することを、企業の生き残りをかけた重要な方針と考える企業が多いです。
インクルージョンについてしっかり理解し、会社の変化に対応できるようになりましょう。